
献血は命を救う行為ですが、長期的に体にどのような影響を与えるのでしょうか? ドイツがん研究センター(DKFZ)やHI-STEM幹細胞研究所、ドイツ赤十字血液ドナーサービスなどの国際研究チームは、頻繁な献血が血液幹細胞に遺伝的適応をもたらし、血液再生を促進する ことを発見しました。
研究チームは、100回以上献血を行った人と10回未満の人を比較し、DNAの変化を分析。その結果、特定の遺伝子変異(DNMT3A変異)が頻繁な献血者の血液幹細胞に蓄積されていることが分かりました。
これにより、献血後の血液再生が効率的に行われる可能性が示されました。さらに、この変異には白血病や心血管疾患のリスク増加は見られず、安全性が確認されました。
Frequent blood donations promote the regeneration of blood cells through genetic adaptation
https://www.dkfz.de/en/news/press-releases/detail/frequent-blood-donations-promote-the-regeneration-of-blood-cells-through-genetic-adaptation
Clonal Hematopoiesis Landscape in Frequent Blood Donors
https://ashpublications.org/blood/article/doi/10.1182/blood.2024027999/535979/Clonal-Hematopoiesis-Landscape-in-Frequent-Blood
繁な献血がもたらす「遺伝的適応」
血液幹細胞は、新しい赤血球や白血球を作り出し、私たちの血液を維持する役割を果たしています。しかし、加齢とともに遺伝子変異が蓄積し、特定の変異を持つ細胞がクローン増殖する「クローン造血(clonal hematopoiesis)」が起こることが知られています。
今回の研究では、頻繁な献血を行う人の血液幹細胞には、DNMT3A遺伝子に特定の変異が蓄積されていることが明らかになりました。 この遺伝子は細胞のエピジェネティックな制御に関与し、環境の変化に適応する重要な役割を担っています。
献血後の血液再生を促すメカニズム
献血をすると体は失われた血液を補うために新しい血液を生成します。この過程でエリスロポエチン(EPO) というホルモンが分泌され、造血が促進されます。研究によると、DNMT3A変異を持つ血液幹細胞は、EPOの影響を受けやすく、血液をより早く再生する能力を持つ ことが分かりました。
つまり、頻繁な献血を行うと、血液再生に適した遺伝子変異を持つ細胞が選択され、血液の回復がよりスムーズに行われる 可能性が示唆されています。
頻繁な献血にリスクはないのか?
血液幹細胞の遺伝的変化は、白血病や心血管疾患のリスク増加と関連することがあるため、今回の研究では頻繁な献血が健康に悪影響を及ぼすのかも検証されました。
結果として、DNMT3A変異による血液再生の促進は、血液の正常なバランスを崩すことなく機能しており、がんや他の疾患リスクを高める兆候は見られなかった ことが確認されました。このことから、献血の安全性が分子レベルでも裏付けられました。
献血が持つ新たな可能性
今回の研究は、献血が単に血液を提供する行為にとどまらず、人体がストレスに適応する過程をリアルタイムで観察できる貴重な機会 であることを示しています。
研究チームのアンドレアス・トランプ氏(DKFZ / HI-STEM)は、「血液を失うというストレスが、造血幹細胞に特定の遺伝的変化を促し、より効率的な血液再生を可能にしている」 と述べています。
この研究結果は、献血の医学的な意義をさらに深め、将来的には造血機能を高める治療法の開発につながる可能性 も示唆しています。
まとめ
頻繁な献血は、血液幹細胞に特定の遺伝的変化をもたらし、血液の再生能力を高めることが分かりました。この変化は健康への悪影響を伴わず、人体が環境に適応する一例 として注目されます。
献血の医学的意義が新たに解明されることで、将来的には血液疾患の治療や再生医療の発展にも貢献する可能性 があります。献血がもたらす影響は、私たちの健康維持にとっても重要なカギを握っているのかもしれません。