研究結果「アルツハイマー病の患者は呼吸リズムが健常者と異なる」早期発見につながる可能性も
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アルツハイマー病(AD)は、神経変性を特徴とする最も一般的な認知症の一種ですが、その原因は完全には解明されていません。これまで、アミロイドβやタウタンパク質の蓄積が主な要因と考えられてきましたが、近年では 脳血管の変化や神経血管ユニット(NVU)の機能不全 も重要な役割を果たしていることが指摘されています。

デンマークの研究チームは、脳の酸素供給の変化と神経活動の同期性(フェーズコヒーレンス)の低下が、アルツハイマー病の進行と関係している ことを明らかにしました。非侵襲的な測定技術を用いた本研究は、アルツハイマー病の診断や進行度評価に新たな視点をもたらす可能性があります。

Neurovascular phase coherence is altered in Alzheimer’s disease
https://academic.oup.com/braincomms/article/7/1/fcaf007/7994547

神経血管ユニットの同期低下が示すアルツハイマー病の進行

脳の神経活動は、血流や酸素供給と密接に連携しています。この相互作用を制御するのが神経血管ユニット(NVU) です。しかし、研究によると、アルツハイマー病患者ではこの神経血管のフェーズコヒーレンスが大幅に低下 していました。

特に、0.1Hz(超低周波)の脳酸素供給の振動が弱まり、神経活動との同期性が崩れる ことで、酸素供給の効率が低下していることが確認されました。このような変化が、神経変性や認知機能の低下に関与している可能性があります。

呼吸リズムの変化とアルツハイマー病の関係

研究では、アルツハイマー病患者の呼吸リズムが健常者と異なることも判明しました。具体的には、AD患者の平均呼吸速度が健常者より速くなっており(1分間に約17回、対して健常者は約13回)、これが脳の酸素供給に影響を与えている可能性があります。

呼吸は心拍数や血流のリズムと密接に関連しており、その変化が脳の酸素供給に影響を与え、神経細胞のエネルギー供給不足につながる可能性があります。さらに、呼吸リズムの異常が、アルツハイマー病に伴う炎症や血管機能の変化と関連している可能性も示唆されています。

脳の酸素供給低下が認知機能に与える影響

本研究では、アルツハイマー病患者の脳において、酸素供給の低下が顕著であることが明らか になりました。特に、血流を調節する「血管運動(vasomotion)」の機能低下 が見られ、これが脳内の酸素供給を不安定にしていると考えられます。

脳はATP(エネルギー分子)を大量に消費するため、酸素供給が不足すると、神経細胞の機能が低下し、認知機能に影響を及ぼします。また、血管の収縮や弛緩のリズムが崩れることで、アミロイドβのクリアランス(排出機能)が低下 し、結果的に病態の悪化を招く可能性があります。

非侵襲的技術を活用した新たな診断アプローチ

本研究は、脳酸素供給のリズムや神経血管の同期を、非侵襲的な測定技術で評価できることを示した点で画期的 です。従来、アルツハイマー病の診断にはPET(陽電子放射断層撮影)や脳脊髄液検査などが用いられてきましたが、これらは高額であり、侵襲的な手法が必要でした。

今回の研究では、近赤外分光法(fNIRS)や脳波(EEG)、心電図(ECG)、呼吸計測を組み合わせることで、より手軽かつ安全に脳血管機能の評価が可能である ことが示されました。これにより、アルツハイマー病の早期診断や進行のモニタリング、さらには治療効果の評価にも応用できる可能性があります。

まとめ

アルツハイマー病患者では、神経血管のフェーズコヒーレンスが低下し、脳の酸素供給が乱れる ことが明らかになりました。これにより、酸素供給の不安定化やエネルギー不足が生じ、神経変性を促進する可能性があります。

この研究は、アルツハイマー病の新たな診断指標を提供するとともに、非侵襲的な測定技術を活用した新しいアプローチの可能性を示唆する重要な一歩 となりました。今後のさらなる研究と技術の進展によって、より効果的な診断・治療法の開発が期待されます。


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