チェルノブイリの黒カビが宇宙で大活躍?放射線を“食べて”成長する真菌の驚異

概要

チェルノブイリの立入禁止区域で発見された黒い真菌「クラドスポリウム・スファエロスペルマム」は、放射線を吸収して成長する能力を持ち、宇宙での利用が期待されています。


Chernobyl’s black fungus turns nuclear radiation into energy, may aid space travel

国際宇宙ステーションでの実験により、この真菌は宇宙放射線下でも繁殖可能で、将来的に宇宙飛行士を守る「生きた遮蔽材」としての可能性が示されました。

地球では死の地で生き延び、宇宙では人類を守る存在になり得るこの真菌の未来に、科学界の注目が集まっています。

チェルノブイリの死地で進化した黒い真菌

1986年の原発事故後、高濃度の放射線が残るチェルノブイリの4号炉内で発見されたのが、黒いカビ「クラドスポリウム・スファエロスペルマム」です。

この真菌は放射線に引き寄せられるように成長し、メラニン色素を多く含むことで電離放射線を吸収し、化学エネルギーに変換していると考えられています。これは光合成に似た「放射線合成」と呼ばれる現象で、過酷な環境に適応した驚異の進化です。

宇宙空間でも放射線を“栄養”にする能力が判明

ISSでの実験では、この黒い真菌が宇宙放射線下でも1.21倍の成長を見せ、放射線を受けて代謝が活性化することが確認されました。さらに、わずか1.7mmの真菌層が放射線を約2.17%遮断する効果も観測されました。

これは、厚く育てれば人間を守る放射線シールドになる可能性を示しており、火星探査などでの応用に期待が高まっています。

真菌シールドで作る「生きた宇宙建築」

NASAではこの真菌を使った「菌類建築(マイコ・アーキテクチャ)」の構想も進んでいます。少量の真菌を宇宙に持ち込み、現地で放射線を使って培養することで、分厚い生きた壁を形成。

これにより、重い鉛などを地球から持ち込まずに済み、コストや燃料を大幅に削減できます。さらに自己修復能力もあるため、過酷な宇宙環境に最適な素材となり得るのです。

放射線を浴びても汚染を広げる心配はない

この真菌は放射性物質そのものを吸収するわけではなく、放射線エネルギーだけを利用しています。そのため、胞子が飛んでも放射性物質をまき散らすことはありません。

宇宙で使われる際には清潔な培地と水を使用するため、汚染リスクは極めて低いとされています。この点も、宇宙での実用化に向けた大きな安心材料となっています。

科学的な解明はまだ途上

真菌が放射線をどう代謝に取り入れているのか、分子レベルでの解明はまだ進行中です。また、メラニンを持つ他の菌類が同様の能力を持つとは限らないため、特異な進化の結果とも考えられています。

それでも、この真菌が人類未踏の環境でも生存し、適応する姿は、生命の強靭さと未来への可能性を力強く示しているのです。

References: Chernobyl’s black fungus turns nuclear radiation into energy, may aid space travel
/The mysterious black fungus from Chernobyl that may eat radiation

文=WEBOPI(翻訳|構成|編集)


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