ラクダの抗体が脳を救う? ナノボディが切り拓く認知症治療の未来

概要

フランス国立科学研究センター(CNRS)の研究により、ラクダやラマが自然に産生する「ナノボディ」という特殊な抗体が、アルツハイマー病や統合失調症などの脳疾患治療に役立つ可能性が示されました。

小型で特殊な構造を持つナノボディは、これまでの抗体が超えられなかった「血液脳関門」を突破し、脳内の異常タンパク質を排除できることが動物実験で確認されています。新たなバイオ医薬として注目されています。

Camels and Llamas could hold the key to treating future brain disorders - Scimex
https://www.scimex.org/newsfeed/camels-and-llamas-could-hold-the-key-to-treating-future-brain-disorders

A Unique Protein in Camels And Llamas May Protect The Brain From Alzheimer's : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/a-unique-protein-in-camels-and-llamas-may-protect-the-brain-from-alzheimers

驚異のミニ抗体「ナノボディ」とは?

ナノボディは、ラクダ科動物が自然に産生する重鎖のみの抗体で、一般的なヒト抗体の約10分の1という小ささが特徴です。

この小型構造により、ウイルスや細菌の防御機構をすり抜ける能力が高く、これまでにインフルエンザやHIVなどの治療に応用可能性が示されてきました。分子が小さいため安定性にも優れ、医療応用において大きな期待が寄せられています。

血液脳関門という“壁”を超える挑戦

脳に薬を届けるうえで最大の障壁となる「血液脳関門」。これがナノボディ活用のネックとされていましたが、近年の研究では人工ナノボディがこの関門を突破し、脳内に蓄積するタウタンパク質やアミロイドβを狙って排除できることが動物実験で確認されました。

これは、従来の薬剤では困難だったアプローチに新たな道を示す成果です。

応用に向けた課題と今後の展望

人への応用には、薬剤としての安定性、血液脳関門を通過する仕組みの解明、脳内での持続性などをクリアする必要があります。また、長期保存が可能な臨床用製剤の開発も求められています。

研究チームはこれらの課題を解決することで、ナノボディが次世代のバイオ医薬として、神経疾患治療のスタンダードになる可能性があると見ています。

「治療の概念を変える」ナノボディの可能性

CNRSの研究者フィリップ・ロンダード氏は、「ナノボディは従来の抗体と低分子薬剤の中間に位置し、全く新しいクラスの治療薬を形成する」と述べています。

この技術は、これまで治療が難しかった脳の病気に対し、より効果的で副作用の少ないアプローチを提供する可能性があります。ラクダの抗体が人類の脳を救う日も近いかもしれません。

文=WEBOPI(翻訳|構成|編集)


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